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ルイジアナ通信

 このページでは、現在アメリカのルイジアナ大学の腫瘍科で放射線治療を主にした、腫瘍内科を学んでおりますネオ・ベッツ専門医育成部門の塩満先生からの最新情報をお届けします。

第1回テーマ:メラノーマ

解説:

   今回のテーマは口腔内のメラノーマに対する放射線治療です。参考までに口腔内のメラノーマの概要を記しておきます。メラノーマは、口腔内マス、持続的な口臭、口からの出血などの主訴が主であり、プードル・ダックス・スコッチテリア・ゴールデンレトリバー等の犬種に好発する悪性度の強い腫瘍です。犬の口腔メラノーマのWHOの臨床ステージは下記のようになっており初期のステージTかUの段階ですでに転移がおこるとされています。しかし、転移病巣の成長速度は一定せず口腔内の原発病巣を切除した後、長期間臨床的に転移が認められないケースもあります。生存期間を決定するのは転移が起こった時期ではなく腫瘍の成長速度であるといわれています。組織検査にておいて有糸分裂が3つ以下のものはそれ以上のものに比べて生存期間が長いともいわれている根拠がここにあるのでしょう。また、発生部位においても生存期間に差があるといわれています。上顎骨吻側と下顎骨尾側の部分に発生したものは他の部位に発生したものに比較して外科手術後の寛解期間と生存期間が長いといわれています。

犬の口腔黒色腫の臨床ステージ(WHO)
基準
臨床ステージ 腫瘍 リンパ節 転 移 犬の割合(%)
ステージT 2cm以下 43
ステージU 2〜4cm 44
ステージV 4cm以上または骨侵入例すべて 13
ステージW すべて 不明
(Managing the Veterinary Cancer Patient)

   この腫瘍に遭遇したとき主治医として考えるのはQOLをどうやって維持し、動物と飼い主の苦痛を取り除くことができるかどうかです。根治することは不可能です。しかし、たとえ予後不良と分かっていても痛みや苦しみがないのなら一日でも長く一緒にいたいというのがオーナーの望みであろうとおもいます。そういった点からメラノーマの治療の選択肢としての放射線療法は苦痛を伴わないといったメリットがありますが、ルイジアナにあるようなメガボルテージの放射線治療機器は非常に高額であり、日本においては限られた施設でしかその治療が実施できないといった問題点もあるのが現状です。では、今回の文献と塩満先生の報告をご紹介します。
(取締役 専門医育成部門 北尾 晃一郎)

本編:

      今月から月一回で文献のご紹介をします。
塩満啓二郎

   今回は Veterinary Radiology &Ultrasound Vol.44,No3,2003から口腔内メラノーマについての文献です。

   口腔内メラノーマは犬では口腔内腫瘍としては、発生率が一番高いです。開業医の先生方も口腔内腫瘍の中でメラノーマは一般によく見る機会が多い腫瘍であると思われます。メラノーマは非常に生物学的挙動が激しく、初期における吻側に位置する小さい腫瘍を除いては手をやく腫瘍でもあります。

   ここルイジアナでは、初期における吻側に位置する小さい腫瘍で所属リンパ節、並びに肺転移が確認されていない症例については外科処置を行っておりますが、多くの症例で進行した状態で来院されるケースが多いので放射線治療+化学療法が一般的です。増大した腫瘍、下顎リンパ節転移、遠隔転移がその進行した例です。基本的な中央生存率は7ヶ月が一般的で、どれだけ生物学的挙動が激しいかがおわかりいただけると思います。それに、口腔内メラノーマでは、手術をした場合、下顎、もしくは上顎切除を実施する必要性があります。多くの犬でそれらの手術に対し十分耐えることができます。しかし問題点として、多かれ少なかれ手術後には外観の問題が生じます。また、咀嚼機能を失うことになりますので、手術の大きさによりますが普通なれるまで数ヶ月かかります。中央生存率を考えたときに、その時期はQOLの面で容認しがたい事実となるかもしれません。そこで、放射線治療は、外観も損なわず、機能の温存も100%できる点で外科治療に変わる優れた治療法である事は疑う余地もありません。今回は、文献の要約の紹介、並びにここルイジアナ州立大学で実際の症例の写真を用いてご紹介致します。

 A Retrospective Analysis of 140 Dogs with Oral Melanoma Treated with External Beam Radiation
140頭の犬における口腔内メラノーマに対する外部放射線治療の回顧的研究

 犬における口腔内メラノーマは放射線抵抗性であるという早期の考えにも関わらず、最近のメラノーマに対する外部放射線治療は局所制御に有効であるという結果が支持されている。しかしながら、最適な分割放射線治療計画は確率は未だにされていない。高い局所並びに遠隔転移が長期制御を妨げている。口腔内メラノーマに対する化学療法の役割は未だに確立されてはいない。この研究では、ノースキャロライナ大学で放射線治療が行われた犬の140頭を下記の目的で評価した。

1)3つの放射線プロトコールを犬の口腔内メラノーマに対して比較(36Gy、9Gy×4分割; 30Gy、10Gy×3分割; 45Gy以上、12−19分割)、 2)予後に関していかなる主要因、腫瘍因子の特定 3)治療結果において、全身治療の効果を判定する 治療に対する反応を考慮する情報として、病気の進行、生存が治療記録、又はそれらの情報を伴った電話、葉書調査から判断された。主要因、腫瘍因子と様々な治療、測定結果(反応、反応の時期、生存)との関係は、フィッシャーの直接検定率検定とコックスの回帰モデルで行われた。犬の140頭の中央生存率は7ヶ月であった。一変量解析においては、以下の変化が初期事象と生存期間の延長に関連していた。
1)吻側に位置する腫瘍 2)頭骸骨撮影における骨融解像の欠如3)顕微鏡レベル

   これらの変化への111頭の完全結果に対する多量解析では、腫瘍の位置、骨融解、腫瘍の大きさが初期事象と生存期間が予想因子として決定された。3つのプロトコールの中で、どの放射線治療を選択したかは反応、初期事象また生存期間には違いがなかった。全身化学療法は全身転移への進行の影響、生存期間にはなんら影響は及ぼさなかったものの、使用された放射線量は理想的ではなかった。外部放射線治療は、犬の口腔内メラノーマに対し局所制御では効果的であるものの、最適な放射線治療計画は未だに確率がされていない。高い遠隔転移、全身化学療法が非効果的であるということがこの病気では観察され、最新治療に対するさらなる研究がのぞまれる。

  以上が文献の要約です。犬の口腔内メラノーマに対しては、手術適応例を除いては放射線治療+プラチナ剤の放射線治療が基本的です。その放射線治療は、大きな放射線量を少ない回数で照射する方法が一般的ですが、この文献は今までのその方法に対して一石を投じる可能性のある文献です。ただ、QOLの面から考えると、中央生存期間が7か月であるこの腫瘍に対して、通常の1−2ヶ月を要するプロトコールは、患者、飼い主の手間暇の問題、金銭的な問題、急性の放射線副作用、その管理などなどを考慮して決して理想的ではないと考えます。その中で、治療回数が3−4回の緩和治療で用いられる高い放射線治療量で少ない分割回数の方法は十分に患者も飼い主も受け入れられる負担であると考えられます。

 以下にここルイジアナ州立大学での実際の症例の写真をご紹介致します。この症例は13歳Lady, 避妊済み雌 で右の上顎上顎に5cm大のメラノーマを伴って来院されました。来院時はすでに診断済みで、飼い主は治療の選択肢を広げるために大学病院へ来院されました。手術を行うと広範囲の上顎の切除になりますのでかなり積極的な外科治療となります。メラノーマの中央生存率、手術の難易度、患者への手術侵襲度、外観、機能的問題、機能的問題が回復する期間、費用などなど様々な問題を考慮すると放射線+化学療法が最適と考えられ治療が実施されました。大きな放射線量で治療回数は4回の治療プロトコールを実施しました。治療前と治療後4ヶ月の写真を下記に添付しました。放射線治療後メラノーマは消失しました。治療後6ヶ月になりますが再発もなく患者は元気です。

 放射線治療+化学療法前

  治療後4ヶ月

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